“指先に咲く花火”
2025年、ウェレンドルフは今年も、そのクラフツマンシップのハイライトを発表します。ジュエリー オブ ザ イヤーです。今回、手元に輝きを添えるジュエリーを、クリストフとゲオルク・ウェレンドルフがご紹介いたします。カスタマーリレーションの責任者と、マニュファクトリーの統括というそれぞれの役割を持つ2人の兄弟が、卓越したクリエーションを生み出す要素について語り合います。それは、人生の最も美しい感情をジュエリーに込めるというビジョン、130年を超えるウェレンドルフの歴史の中で得たかけがえのない経験、そして、ともに歩む散歩道の中にもあるのです。
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クリストフ・ウェレンドルフさん、ゲオルク・ウェレンドルフさん、ジュエリー オブ ザ イヤーは厳選されたお客様をお招きした特別なイベントで発表されますね。2025年にはビルトモア(アメリカ)、上海、東京で開催されましたが、それに先立って、5月と7月にはベンスベルク城(ドイツ)でスタートイベントが行われました。そちらでの雰囲気はいかがでしたか?
クリストフ・ウェレンドルフ:こうしたイベントには、ウェレンドルフファミリーと、最も熱心なコレクターの皆様をお招きしています。ドイツのベンスベルグ城、かつて狩猟のための館であった美しい古城を舞台に、今回もアットホームな雰囲気の中での素晴らしい祭典となりました。イベントが終わる頃には全員が、来年も必ず参加したいと口々に言いました。なぜなら、ウェレンドルフでは誰もが単なるお客様ではなく、大きなファミリーの一員であると感じているからです。
ウェレンドルフのコレクションの中でも、ジュエリー オブ ザ イヤーは特別な役割を果たしているということがわかりますね。
ゲオルク・ウェレンドルフ:はい。このリングは特別な人々のために制作されているのです。今年は、世界中から集まった最も熱心な48人のウェレンドルフファンの方々、つまり、48人の特別な女性のために。この限定数は、48年前、私たちの父が、最初のウェレンドルフ シルクコーデルを母に贈ったことにちなんでいます。このバースデーを、ジュエリー オブ ザ イヤーで祝うのです。だからこそジュエリー オブ ザイヤーは、ジュエリーとしての価値だけでなく、それ以上の大きな意味を持っているのです。こうした価値観を大切にし、未来を見つめ、新たな技術に挑戦し、お客様に驚きを届けるために邁進することができます。そして、これまでジュエリーの世界では知られていなかった道へと足を踏み入れることができるのです。


今年のジュエリーは、リング「DIAMOND DROP.」ですね。このリングにはどのようなアイデア、どのようなビジョンが込められているのでしょうか?
クリストフ・ウェレンドルフ:始まりは、ちょっと変わった、そして、インスピレーションにあふれわくわくするような問いでした。愛、成功、幸せを感じる時。それらは、人生で最も美しい3つの感情。この感情を1つのジュエリーに込め、永遠に留めるにはどうすればよいのか?この3つを融合し調和させ、ひとつにするにはどうすべきか?これが、弟のゲオルクがマニュファクトリーの専門チームとともに成し遂げなければならない挑戦でした。
そうして、6つの異なるデザインのグリュックスリング(Glücksringen)が生まれたのですね。服装や気分、そして、いつまでも大切にしたい瞬間に合わせて身に着けられるようにと。
クリストフ・ウェレンドルフ: その通りです。全6種類のグリュックスリングの中から、ご自身の感情や思いを最もよく表現するモデルを3つ選んで身に着けるのです。
ゲオルク・ウェレンドルフ: 私たちが創り出すのは、どんなシーンやスタイルにも容易に合わせることができるジュエリーです。日常に寄り添い、その人らしさを常に映し出し、そして何より、兄の言葉を借りるなら、気分を表現するジュエリーなのです。異なる色彩のグラデーションでデザインされたグリュックスリングと、メインリングにカチッとはめ込むことができる構造により、多彩に、そして無限に組み合わせを楽しむことができます。常に新しく生まれ変わるジュエリーなのです。


この大胆なアイデアの実現にはどのくらいの期間を要したのでしょうか?
ゲオルク・ウェレンドルフ: リングの実現には約3年を費やしました。いや、実際には132年です。
132年?
ゲオルク・ウェレンドルフ: これは、私たちがウェレンドルフの歴史を綴り続けてきた年月です。先代から受け継いだ知識なくして、第5世代となった今、私たちがこのリングを開発することはできなかったでしょう。現在私たちがもつ知識は、この長い伝統の上に築かれているのです。こうした知識を代々継承してきた両親、祖父母、曾祖父母には、感謝しかありません。そして私たちも、次の世代のために、同じようにしていきます。この132年は大きな宝なのです。
兄弟として、また家族として、どのように仕事をされているのですか?こうしたジュエリーのアイデアは、どのように生まれるのですか?
ゲオルク・ウェレンドルフ: インスピレーションは様々なところから得られます。もちろん、なによりお客様からは新しい貴重なアイデアをいただいています。だからこそ私たちは、ウェレンドルフファンの皆様のご要望に注意深く耳を傾けているのです。



クリストフ・ウェレンドルフ: そして、弟のゲオルクとの散歩。これもとても大切にしています。30年以上にわたって、可能な時はいつも、同じ交差点で待ち合わせ、一緒にマニュファクトリーまで歩くんです。20分は歩きます。夕方の帰り道も同じです。この短い時間から、多くの素晴らしいアイデアが生まれてきたんですよ。会話し、議論し、思索を重ね、時には白紙に戻し、そうしてアイデアがひとつ、かたちになります。私たちは異なる人間ですが、兄弟として価値観を共有し、卓越性に対する同じ考えをもっています。この散歩で私たちは、愛を込めて最高のものを作ることができるということを日々実感しています。こうしたやり取りが、お客様に常に驚きを提供したいという情熱を後押ししてくれるのです。アップル社の フェローのフィル・シラー氏が「ウェレンドルフ、驚きを与え続けてくれ!」と言っていたように。
中でも特に美しい驚きが、ジュエリー オブ ザイヤーですね。
クリストフ・ウェレンドルフ: ええ、感情の世界を結び付け、愛、幸福、成功といった想いをひとつのリングの中で輝かせるのですから。これを実現したのが、ウェレンドルフ史上これまで開発されたことのない洗練された技術、類まれな、組み合わせられる仕組みです。さらにリングの側面にはスペースが設けられ、ゴールドの面に、身に着ける人だけのメッセージを永遠に刻むことができるようになっています。これもまた、エネルギーを宿すリングを形作る要素です。
ゲオルク・ウェレンドルフさん、このドロップダイヤモンドについてお聞かせください。特別なセッティングが施されていますね。これがユニークなのはなぜですか?
ゲオルク・ウェレンドルフ: ゴールドスミス(金職人)が何年もの間使用してきた3つのセッティング方法があります。リング「DIAMONDDROP.」は、この3つの方法を組み合わせています。1つ目はパヴェセッティングで、小さなダイヤモンドを密に並べ小さな粒(グレイン)で固定する方法です。ウェレンドルフでは、2本のゴールドの爪で固定される、2点留めを採用しています。2つ目の方法は擦り留めで、ダイヤモンドWに見ることができます。カットを施した宝石の縁の上からメタル素材をわずかにこすり込み、面を均一に固定する方法です。



そして3つ目の方法は?
ゲオルク・ウェレンドルフ: ベゼルセッティングです。これは、ダイヤモンドドロップでも見られるように、大きな石の周りにぴったりとセッティングを鍛造する方法です。この技術は容易ではありません。まず、原石のダイヤモンドからひとつひとつの石をカットします。このとき、すべてのダイヤモンドが美しく澄み、カラーやカットの比率が正確である必要があります。ただし、非常に高い精度とはいえそれぞれの石は細微な差が生じます。可能な限り正確な形状を作り出すことに加え、特に注意を払っている2つ目の点は、美しい光の反射を作るため、ダイヤモンドがあらゆる角度から最大限に光を捉えるようにすることです。
セッティングには、確実な固定と輝きの絶妙なバランスが求められるのですね。
ゲオルク・ウェレンドルフ: はい。一方では、ダイヤモンドを確実に固定するために可能な限り強固なセッティングが必要です。しかしもう一方では、輝きも重要です。お分かりの通り、この2つは相反しています。ダイヤモンドを留めるためゴールドで多く覆うほど、光が入りにくくなり、輝きが失われてしまうからです。そこで私たちは、ダイヤモンドドロップの可能性の限界を押し広げることにしたのです。このリングで、しっかりとした固定、そして絶対的な輝きの両方に、完全な信頼性を実現しました。
この3つのセッティング方法が、ジュエリー オブザ イヤーを創り出すのに十分なことでしょうか?
ゲオルク・ウェレンドルフ: 十分というのは、私たちの基準ではありません。私たちが見つめるのは最高レベルの卓越性のみです。グリュックスリング「MOMENTS IN DIAMAND.」の開発において、これまで世界のどこにもなかった革命的なセッティング方法を導入したのはそのためです。私たちはそれをウェレンドルフ ミラーフィニッシュと呼んでいます。このリングのひとつひとつのダイヤモンドの下には、極小の鏡が配置されています。それぞれの鏡はわずか1.5mm × 1.5mmの大きさで、ピンの頭ほど小さく、高光沢に研磨されています。鏡と鏡の間には、光をさらに屈折させる小さなファセットが施されています。これによって華麗な光の演出が生まれます。極めて小さな光でも、反射し、屈折し、美しいダンスを見せるのです。例えるなら、「指先に咲く花火」のように。
そうした構造を作り出す中で最も大きな挑戦は何ですか?
ゲオルク・ウェレンドルフ: 鏡面に触れないことです。ダイヤモンドのセッティングをする際、工具が触れて鏡面をわずかでも傷つけてしまうと、光が正しく反射されなくなり、すべての作業が台無しになってしまうからです。欠陥は表面に表れ、すぐにわかります。そうなると溶解炉に入れて、また最初からやり直しです。
クリストフ・ウェレンドルフ: もう一度強調したいのは、完璧なジュエリーを制作するという私たちの意欲は、新しいセッティング方法をも生み出すほどに強いのだということです。すべては完璧を実現するためです。人生の美しい感情をより輝かしく表現し、手元の輝きが、お客様の瞳をも輝かせるように。
感情を目に見える形にし、ジュエリーに反映させるということですね。
ゲオルク・ウェレンドルフ: その通りです。グリュックスリングに愛を表す小さなハートを加えたのはそのためです。

感情のアンサンブル。48個限定のリング「DIAMOND DROP.」とリング「DIAMOND.」、そして6つの対応するグリュックスリング「MOMENTS IN ONYX.」、「MOMENTS IN GREEN.」、「MOMENTS IN BLUE.」、「MOMENTS IN RED.」、「MOMENTS IN RAINBOW.」、「MOMENTS IN DIAMOND.」。
そのハートは、とても美しく、そして非常に小さいですね。この制作にもまた、技術的卓越性が要されるのでしょう?
ゲオルク・ウェレンドルフ:このような小さなハートを完璧にデザインするためには、比率と輪郭が極めて正確である必要があります。誰もが遠くからでもすぐにハートとして認識でき、よごれのように見えることのないように。究極の精度を以て、1.5mm × 1.5mmという極小のスペースでそれを成功させることができました。
クリストフ・ウェレンドルフ:素晴らしいことだね、ゲオルク。だが君は白髪が増えたようだ。こうした技術的挑戦と極めて難易度の高い革新を扱う内に増えたのではないか。
ゲオルク・ウェレンドルフ:そうだね、クリストフ、高い品質を創り出すには常に苦労がつきものだから。
グリュックスリングは特別な仕組みでメインリングにセットできるのですね。
ゲオルク・ウェレンドルフ:そうです。しっかりと、そして何より簡単にセットできるようにする必要がありました。そして、目に美しく、指になめらかにフィットし、厚すぎることのないように。リングをはめて支えるレールは、薄すぎてもいけません。同時に、カチッとしっかりはめ込まれるように、レール全体にわずかに弾性を持たせる必要もありました。これは、ゴールドの特性を研究してこそ実現できるのです。薄すぎると弾性がなくなり、厚すぎると突出して不格好に見えます。この目的に合った金属を使用する必要があり、そのために私たちは、K18ゴールドのみを使用しています。さらに、弾性特性を保つために特別な熱処理を施しています。
これらのリングは回転もするのですね?
クリストフ・ウェレンドルフ:もちろんです。互いにしっかりフィットするようにできているので、グリュックリングは回転可能になっています。それにより異なる色のグラデーションをしっかりと活かすことができ、そしてどのリングでも、小さなハートが上向きになるよういつでも回すことができるのです。ムードリングの色のグラデーションはとても調和が取れていますね。これを実現するのは簡単ではないと思うのですが。
ゲオルク・ウェレンドルフ:極めて困難です。まずコールドエナメルの正しい濃度が必要です。濃度がほぼ同じになり、すべてが完璧に融合するように、正確なタイミングを捉えなければなりません。これは特にリング「MOMENTS IN RAINBOW.」で良く分かります。異なる色が次の色に美しく流れ込んでいます。エナメル加工の際、顕微鏡下でピペットを使って色を塗布します。その時に、ピペットの先端が彫刻面に触れないようにしなければなりません。修復不可能な跡が残ってしまうからです。非常に繊細な作業のため、手元の安定が不可欠です。わずかな震えでも作業が台無しになってしまいます。兄弟としてお互いから学ぶものは?2人で協力することが特別である理由は何でしょうか?
ゲオルク・ウェレンドルフ:私たちはとてもよく補完し合っていると思います。兄はより自発的で、衝動的でじっとしていられないタイプ。常に新しいアイデアを出してくれます。私の性格ととても
相性がいいんです。私はより慎重で、まず物事をよく考え、何が実現可能かを見極めるタイプですから。ではクリストフさんはどうでしょう?弟さんのどのような部分が素晴らしいと思いますか?
クリストフ・ウェレンドルフ:私たちを強く結び付けているのは、互いへの深い信頼です。弟は長年を経て、私の親友になりました。それは、おそらく彼の落ち着きのある態度、そして細部への尽きることのないこだわりと、大いに関係があると思います。きっともう2026年のジュエリー オブ ザ イヤーに取り組まれていることと思いますが、何か聞かせてもらえませんか?
ゲオルク・ウェレンドルフ:先に何か教えるですって?それはできません。驚きをお楽しみください。


